2010年02月28日

《ノラ猫》

私と一匹のノラ猫との、出会いから別れまでを少しずつ語らせていただきました。

《ノラ猫に目薬》第6回・最終回です。


通勤路で出会い、仲良くなったノラ猫の眼に、目薬を点しはじめた私。

“嫌われる”心配は、杞憂でした。変わらず擦り寄ってきてくれました。
《ノラ猫》
姿を見るたびに、懐に準備した猫用目薬を点眼します。

猫にとっては眼がしみるだけの、不快なことだったでしょう。でも、私を慕い続けてくれました。


また、私がこの猫に気づかずに通り過ぎようとすると、呼び止められるようにもなりました。

『にゃあ!』と声をあげて、身を隠していた場所から飛び出して。私のほうに走り寄ってきます。
《ノラ猫》
声をかけ、ひとしきり遊んで、目薬を点します。1日に3滴ずつほどの、地道な行為。


1週間もそんな生活を続けていると、私が“右手を顔の前にかざす”と、身をすくめるようになりました。

その動作の後、“眼がしみる”ことを学習したのでしょう。でも、逃げようとはしませんでした。
《ノラ猫》
心の中で「ごめんね、でもお前のためだからね」と念じ続けていた私。

言葉は通じない動物に、何かが伝わっていたのだと、今となっては思います。


しかし、この猫の我慢も私の思いも、眼の症状の改善にはなかなか結びつきませんでした。

朝・晩と会えて、点眼も出来たという日が続くと、明らかに眼は開いてきていました。

しかし不安定な生活のノラ猫相手のこと。2、3日会えないでいると、また元の状態です。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


目薬を点し始めて1ヶ月くらいがたち、12月も半ばを過ぎたある日。

頑張る猫に愛しさが募った私は思いました。「クリスマスくらい、なにか美味しいものをあげようかな。」

街の猫に食べ物を与えないことを決めていた私にとって、禁を破る決意。
《ノラ猫》
何も知らない猫は、ただ変わらず甘えてくれました。

そして。これが最後のふれあいになりました。


「よし。」立ち上がって。

「じゃあ、またね。」と声を掛けて。

足早にその場を離れました。

この頃にはずっと私に着いて来ようとするので、逃げるように別れなければならなかったのです。

また、写真も私に密着したものしか撮れなくなっていたので、

「全身を撮りたい」と思って写したのがこの一枚。
《ノラ猫》
私を追うこの表情が、走る姿が。切なくもあり、うれしくもあり。

そしてこれが。私が知るこの猫の最後の姿です。


この日以来、その姿を見ることが出来なくなりました。

1週間が過ぎ。ひと月が過ぎ。

喪失感に突き動かされ、探し回りました。

しかし再会は叶わぬままその冬は終わり。

そして次の冬も、もう終わります。

ノラ猫との別れは、あまりにもあっさりと訪れました。

私はもう、この猫と会うことは無いでしょう。

でも、今もどこかで元気に暮らしていることを願います。


※ ※ ※ ※ ※ ※ ※


一匹のノラ猫との出会いと別れを通じ、

“猫”という生き物、特に街に生きる“ノラ猫”という動物のことを、

もっときちんと考えてみようと思いました。


この生き物を可愛いと思うのも、迷惑だと思うのも、根源は同じ。

今私たちが知る“猫”は、人類によってその形質が定着されたものです。

そして野生ではない、“ノラ猫”という存在も、人が作り出した生。

私はどうしてもこの生を「不幸な命」とは思いたくありません。


このブログのカテゴリー『今日のにゃんこ』では出来るだけ、

「可愛いノラ猫の姿」だけをお伝えしてきました。

当初私の想定した以上の多くの方に閲覧いただき、感謝しています。

一年にもならない期間のうちで、すでに記事数は200に迫ろうとしています。

普通のサラリーマンが、日常生活の中でそんなにたくさん写真を撮れてしまうのが街の猫。

そしてその事実から、ちょっと考えてもらえるのではないかと願っています。

「何でこんなに可愛いのか」

「どうして人になつくのか」

「どれだけの数が生きて、死んでいくのか」


この“ノラ猫”という生き物と、幸せに共存できる世の中は、きっと素敵だと思うのです。



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Posted by 庄島 憲 (クロスシリンダー) at 10:00│Comments(7)《ノラ猫に目薬》
この記事へのコメント
いつもブログ拝見させて頂いてました。ノラ猫に目薬終わりになるんですね。
猫ちゃんたちの姿に癒されていたので、残念ですが、
ノラ猫に目薬さしてあげるなんて、文章もすごく優しい感じで思いやりのある方なんだなと感じてます。
ノラ猫ちゃんについても、本当その通りですね、猫好きなだけに考えちゃいました。
目薬点してた猫ちゃんが今でも元気でいますように。
Posted by ゆいら at 2010年02月28日 21:33
>ゆいらさま
ご丁寧なコメント、ありがとうございます。
このブログは続けますので、変わらずご覧いただけると嬉しいです。

この目薬を点した猫には思い入れがあったので、
『今日のにゃんこ』カテゴリーとは別枠で語ってきました。
《ノラ猫に目薬》のお話しを一区切り出来たことで、
この猫にやっと「さよなら、またいつか」という気持ちになれました。

また新たな思いで街の猫たちと接しようと思います。
春が近づき、猫たちの写真もたくさん撮れています♪
どんどんご紹介しますので、どうぞお楽しみに(^^)
Posted by クロスシリンダークロスシリンダー at 2010年02月28日 23:02
こんにちは♪

久しぶりにパソを開きました・・・

この猫ちゃんとの 出会い
なんか 言葉で上手く言い表せないけど  

深く心に残る 出会いでしたね・・・

クロスさんと、この猫は出会うべくして出会った気がします

人と動物というジャンルを越えて 気持が通じたんですね


後追いする 猫ちゃんの姿が とても せつないけど

でも クロスさんと出会ってからの猫はしあわせだったことでしょう



私も ここのブログにお邪魔するようになってから 動物に対して
の考え方が変わったように思います。


人間の一方的な都合で接することのないよう  気をつけなきゃなって・・・




この猫ちゃん、  どこかで 元気でいてほしいですね(^^)
ていうか 元気にしていますよ きっと!
Posted by きくりん at 2010年03月01日 17:58
>きくりんさま
お久しぶりです♪

「出会う」って、すごいことだと思います。
普通の人間と、普通の猫と。
出会ったからお互いが特別になったんだなと。

人間は獲得した影響力の大きさゆえに、
色々な生きものに責任を果たさなければいけないと思います。
自分達が作り出した“猫”に対してはより重い責任を、とも。
そのために何をするべきか、考えていきたいと思います。

この猫については私の友人達は、
「どこかで飼われて目もキレイになって幸せ太りしている」と、
現在の姿を想像して話してくれます(^^)
Posted by クロスシリンダークロスシリンダー at 2010年03月01日 23:33
私がはじめて飼った猫は、丁度こんな野良猫でした。
小学生の私は、それまで猫というと、
テレビの化け猫のイメージがありコワイなあと思っていたんですが、
その野良猫の、あまりのなつっこさというか、
必死さというか、その姿に、拾わずを得なかったものです
それから、私も猫が大好きになって、
たくさんの猫を飼いましたが、
最期を看取る猫もいれば、
いなくなってしまう猫もいました。
行方を知るすべはありませんので、
きっとどこかで暮らしてるんだろうと思うようにしてます。
私(パパンダ)のブログの作品集の中に、
「またあした」という作品がありますが、
そんな感じのテーマの絵です。   パパンダ
Posted by 甲玉堂甲玉堂 at 2010年03月03日 17:52
>甲玉堂(パパンダ)さま
猫がコワイところからのスタートだったとは・・・。
それでも拾ってくださって。
その猫にとっても、そのあと飼われた猫たちにっても、
素晴らしい出会いになったのですね。
出会い、別れるまで。
命を預かられた方のお言葉、重みがあります。

「またあした」手を振る猫が印象的でした。
せつなさの中にも心に安らぎをもたらしてもらえる、
素晴らしい絵と思います。
Posted by クロスシリンダークロスシリンダー at 2010年03月03日 23:40
はじめまして。福井市在住の王島将春(おうしままさはる)と言います。聖書預言を伝える活動をしています。

間もなく、エゼキエル書38章に書かれている通り、ロシア・トルコ・イラン・スーダン・リビアが、イスラエルを攻撃します。そして、マタイの福音書24章に書かれている通り、世界中からクリスチャンが消えます。その前に、キリストに悔い改めて下さい。ヨハネの黙示録6章から19章を読めば分かりますが、携挙に取り残された後の7年間の患難時代は、苦痛と迫害の時代です。患難時代を経験しなくても良いように、携挙が起きる前に救われてください。

願わくば、このノラ猫の地上での日々が、幸せなものでありますように。そして猫にも死後の世界があるのならば、天国に行けますように。
Posted by 王島将春 at 2022年09月08日 12:46
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